JAPANESE READING · JLPT N1

JLPT N1 読解教材

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JLPT N1の教材

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3教材

お花見

花見の席で桜を見ている時間は、意外に短い。場所を探し、料理を広げ、久しぶりに会った人と話しているうちに、花は背景になっていく。それでも私たちは、この集まりを食事会ではなく花見と呼ぶ。桜の美しさもさることながら、同じ季節を誰かと確かめることに意味があるのだろう。 満開の木だけが桜の魅力なのではない。咲く前には天気予報のように開花を待ち、散り始めれば道に重なる花びらを惜しむ。見頃が短いからこそ、来年も同じ場所に来られるとは限らないことまで意識させられる。この季節ならではの落ち着かなさが、人を外へ連れ出すのかもしれない。 一方、有名な公園では場所取りやごみが問題になり、静かに花を見たい人と大勢で楽しみたい人が同じ空間を使う。混雑を避けるなら早朝に行くに越したことはないが、便利な方法だけを探しても解決しない。自分の楽しみ方が、別の人の春を狭くしていないかを考えることも、花を見る時間の一部である。

文章約2分花見桜集まり天気予報満開

町を歩く研究者

大学で都市史を教える森さんは、授業を担当するかたわら、古い商店街の変化を調べている。地図や行政資料だけでなく、そこで暮らす人の記憶も重要な資料になるという。森さんが調べる商店街では、戦後に建てられた店が次々に閉まり、土地の使い方も変わっている。建物がなくなれば、そこにあった暮らしを知る手がかりも減る。森さんは買い物がてら町を歩き、店主や住民と短い会話を交わす。 正式な聞き取り調査とは異なるが、日常の場だからこそ語られる話も少なくない。行政資料には建築年や所有者が記されているが、店先で交わされた会話や季節ごとの習慣までは残らない。公的記録だけでは見えない歴史がある。ただし、日常の会話を研究に使う場合には注意が必要だ。相手が研究のための記録だと理解していなければ、その言葉を勝手に公表することはできない。 森さんは興味深い話を聞いたとき、後日あらためて目的を説明し、記録してよい範囲を確認する。名前を出したくない人の証言は匿名にする。調査を始めたころは、大学から来た研究者に何が分かるのかと疑う住民もいた。森さんが何度も町を歩くうち、少しずつ資料を見せてもらえるようになった。集めた写真や聞き取りは大学だけに保存せず、商店街の展示でも紹介している。 住民が内容を訂正したり、新しい情報を加えたりできるようにするためだ。取り壊される建物から住民の記憶に至るまで記録しなければ、町の歴史は捉えきれない。長年その場所を使ってきた人の視点を残すことが、研究を地域に返す一つの方法だと森さんは考えている。研究者が地域を説明するのではなく、地域とともに記録を作る。その過程そのものが、失われかけた記憶を共有する場になっている。 森さんは、調査対象の町を「分かった」と感じたときほど注意すると言う。住民と親しくなれば質問しやすくなるが、聞き慣れた説明を当然だと思い、違和感を見落とすこともあるからだ。外から来た視点を失わず、同時に外部の基準だけで町を判断しない。その不安定な距離を保つことが、地域を研究する難しさであり、面白さでもある。

文章約5分研究町住民商店会話

深海観測が残した音

その日、深海で記録された低い音は、既存の分類では説明しようにも説明できないものだった。観測機器の故障も疑われたが、同じ海域の複数地点で確認された。研究班は音の正体を突き止めるため、海流、地震、海洋生物の記録を照合した。単一の原因を急いで選べば、重要な変化を見落としかねない。 未知の現象を解明せんがため、翌年には耐圧性能を高めた機器を設置した。以前より長い期間、途切れずに観測できる。集まったデータから、音は季節によって位置を変えることが分かった。 ただし、生物が発する音か、地形によるものかは断定できない。研究者は陸上にいながらにして深海の変化を追える体制を整えた。結論を急がず、公開データとして各国の研究者にも検証を求めている。 若い研究者は、正体が分からない音に名前を付けるのをあえて避けた。名前があれば議論しやすくなる一方、その名前に合う証拠ばかり探してしまう恐れがあるからだ。未知のものを研究するには、仮説を持つ力と、仮説に執着しない力の両方が要る。分からない状態を保つことも、研究の一つの技術なのである。

文章約3分音深海観測研究正体